眞魔国に再び戻る前に問われた

「君は一体何者なんだろうね」

突然の問いに頭はおろか反応も出来ずに間が空いてしまう。
質問の意図する部分をその真意を図りかねて、答えるタイミングを、逃した

何者か、なんて。

(あたしが一番知りたいっつーの。)

ひょんなことからやってきてしまった眞魔国。
親友の前世は言賜の巫女とか、目の前にいる何処にでもいそうな秀才のメガネ君が大賢者様だとか
更に部屋の奥にいっらしゃる方が27代魔王様だとか

3人とも魔族って言われても、どう見たって日本人にしか見えないし。

3人とも理由があって、眞魔国にやってきた。


―じゃあ?

                                       My Way

「は?」

珍しく早く起きた朝の中庭で、
また魔王様の代わりに大量の仕事を片付けて居城に帰れずそのまま朝を迎えた長兄の、目の下の隈に気を取られていて
その前の発言を聞き逃しかけた。

「そういうことだ。」

えっと。スミマセン。何がそういうことなのかさっぱりなんですが。

「・・・・しばらくは自室で大人しくしていてくれ。」

拒否権の無いお願い。かと言って断る理由もあるわけじゃないので頷く事で了承の意を伝える。
仕方なく部屋に戻ろうと踵を返すと、丁度足元に小さな何かからタックルされた。

「っわ?!グレタ?!」
「グウェンのばか!!を仲間はずれにするなんてひどい!!」
「?!!違うぞグレタ、これは、」
「ユーリのためって言うんでしょ?!だったらグレタも一緒だもん!グレタもユーリをこ」
「ハイすとーっぷ!!グレタ落ち着いて。はーい深呼吸ー」

聡いお姫様を抱き上げ、涙目になって必死でこらえてる背中を宥める。嫌なことは思い出さなくていい。
「ねぇ?グレタ?」
「?」
「家出しちゃおうか♪」
「!??!」
「グウェン樽が追いかけてくるぞ!そぉれ逃げろー♪」

かわいいかわいいお姫様の涙に動揺を隠せない編みぐるみ閣下を尻目に走り出す
丁度入口に立っていたとウェラー卿と陛下と猊下の間をすり抜け

「わはは!!娘は預かった!!返して欲しければお菓子と飲み物と毒女シリーズ最新刊をもってくるがいい!!
 ああ、スコーンとクロテッドクリームはたっぷりね!!」

そう捨て台詞を吐いて走り抜けた。

「・・・・グウェンどういうこと?コンラッドも知ってた訳?」
「説明しろよ。村田も知ってるんだろ?」

珍しく、陛下までもが怒っている。娘を涙目にさせた罪は重い。


―素性がわからない以上、魔王陛下の傍に置くことはできない。―

尤もな話ではある。敵か味方かわからない以上、あらゆる危険を想定し対処していくのは
臣下としての当然の義務だ。

「仕方ないだろう?が何者なのかわからないのにこれ以上渋谷の傍にいさせることは他にも示しがつかないし」
「他って誰?示しってなんだよ?は、口の悪くて態度もでかいただの女子高生だろうが!」
「コンラッドもムラケンと同意見?」
「・・・残念ながら。にも危険がある以上、の事に関しては、」
「何よそれ!あたしの為だって言いたいの?!はここに来る前からの友達なのに?!」
「しばらくの間だと言っただろう。今ウルリーケに、」
「グウェンダル、村田も、コンラッドも。だったら、何で俺に一言言わなかった?」
「・・・。」
「だって言ったら反対しただろう?」
「当たり前だ!!とにかく今後一切こういうのはナシ!いいな!?」
「ほらー、ウェラー卿。渋谷にバレると面倒だから、先に言った方がいいって言ったのにぃー」
「?!猊下!?何を!」
「「コンラッド?」」
「ウェラー卿、人のせいにするなんて往生際が悪いゾv」
「とにかく、今日の夕方までにはウルリーケからの連絡が来る。それまで、大人しくしていろ」

収拾のつかなくなってきた会話を止める為、更に眉間の皺を増やした長兄が言い放つ

「ねぇユーリ?」
「奇遇だな、?たぶん同じこと考えてると思うぞ」

ふたりしてにっこり笑って1歩下がる。

「コンラッドの馬鹿!わからずや!セクハラ魔人!いいって言うまでスキンシップ禁止!!」
「家出してやる!!ギュンターの授業もサボる!今後は必ず俺に相談しますって一筆書いてもってこい!!」

多少今回とは関係の無い捨て台詞を吐きつつダッシュで、逃げた。



「あ、ユーリ!」
「グレタ!!!逃げるぞ!!」
「陛下も逃げたら狂言誘拐になるじゃない!!サン!?身代金代わりのお菓子は?お茶は?スコーンは?」
「わはは抜かりなく!!クロテッドクリームもたっぷり入れてもらったわよ♪」
走りつつが籠を持ち上げ満面の笑みで答える。

「いえでってピクニックの事?」
「そうよー」
、今うそついた!!グレタがわかんないからってうそ教えちゃダメなんだから!!」
「グレタは賢いなぁ!!流石自慢の娘!!」
「いい教育なさってるわね、陛下。っていうか陛下はサボりたいだけでしょう?」
「違う!グレタと遊びたいだけだ!」
「あら知らなかった?『渋谷有利』と書いて『親馬鹿』と読むのよ?」

親馬鹿魔王。・・・・この国の行く末が楽しみでならない。
丁度外に出た時、2階からウェラー卿と「婚約者を置いてどこへ行く?!この尻軽ユーリ!!」と叫ぶ
フォンビーレフェルト卿の声がしたが、魔王様と2人の姫を連れて逃走。捕まったら重罪かもねぇ。

***

辿り着いた先は丁度城の裏手にある見晴らしの良い草原。眼下の町並みを眺めつつ、
いそいそと下に敷くブランケットを取り出し、お茶の準備をはじめる。
・・・どうせそう長い事しない内に見つかるのは目に見えているし。
そうなってしまえば、ゆっくりお茶どころじゃないだろう。だから今のうち、とふと目の前に何かがよぎる

「・・・はな?」
ゆっくりと目の前をよぎる花びらを手のひらで閉じこめる

「何のお花?」
「桜っぽいな?」
「ホントねぇーきれー」
「花見したいなぁー」
見上げればちらほらと薄紅色の花が咲いていて、あと4・5日すれば満開になるだろう。

「もう少しで満開になるだろうから、その時はみんなで花見でもするか!」
「その前に、陛下は仕事片付けないとねー」
「ううぅ。。」

現実を思い出してしまった陛下は無視して、焼きたてスコーンに手を伸ばす
も陛下も一緒になって逃げることなかったのに。」
「何言ってんの!ムラケンもグウェンもコンラッドまで、疑うなんて、馬鹿げてる。」
「そうだ!!がそんな事する訳が無い。」
、陛下。」

ここまで怒ってくれている事に素直に感動しかけた。

「殺るなら証拠の残らない完全犯罪やるに決まってんじゃない!」
「大体、俺に危害加えてに何のメリットがあるってんだよ?利益も上がらないのにやる訳ないじゃねぇか。」

・・・・・・・・・・よく、ご存知で。

「・・・仕方ないでしょ?アレはアレで心配とか用心するのも仕事の内なんだし。」
「だからって、妙な言いがかりつけられて納得できるの?」
「別に、何の後ろ暗いところも無いし?・・・・安心して?晴れて潔白が証明されたら、そりゃぁもう、ね?」

黒い笑み。なぁに3人とも?隅っこに固まっちゃって。

「でもまぁ、色々と面倒なのがいない時でよかったって事で。」
「「面倒なのってだぁれ?」」

目の前に居座るグレタの声とシンクロして背後からハスキーな声が聞こえた。
はらりと舞い落ちた花びらがカップに入って、ああ、風情があるわー。

?陛下もグレタ姫もまでっグリ江を仲間はずれにするなんてひどーいっグリ江もまぜて!」

・・・・・来た。面倒なのが来た。




「グリ江ちゃん何時戻ってきたの?」
「ついさっきー?ヴォルテール城に戻ったら親分こっちにいるって言うんですもんvグリ江もぉークタクター」
「まさかコンラッド達も?!」
「大丈夫よぉ『ヲトメのお茶会邪魔したら、ニューヴァージョンのメイド服で迫るわよ?』って言ったら、
 大人しく待ってるってーvもぉー失礼しちゃーう」
「せまるってなぁに?」
「うふふv隊長に聞いてごらんなさい?グリ江よりも詳しくわかりやすく教えてくれるわよん♪」
「ヤメテクレ」

娘の情操教育に支障がおきそうだと陛下も必死。ああ、でもそれは楽しそう。


持ってきたお菓子や、お茶を食べつくし、柔らかな日差しの中で毒女シリーズの最新刊も読み終えた。
膝元で夢の世界へ旅立ったお姫様を起こさないようにヨザックが抱き上げ、陛下が受け取る

「で?ウルリーケ様からの返事が来るまでここにいるつもり?」
「まさか。ギュギュギュ閣下が汁流しすぎて、遠い世界に逝く前に帰るつもり。」
「じゃあそろそろやばいかもなぁ?」

うとうとしかけていたが起きて遠くを見てるので、誰か来たのかと思ったら、案の定ウェラー卿が
迎えに来ていた。

「行かないの?」
「だって。まだ怒ってるもん。」
「んーでも、またウェラー卿に恨まれちゃうし?」

いいから行って来いとを送り出す。
渋々が歩み寄り、コンラッドが何事か謝っている。仕方ないなぁ、も引くに引けなくなってるし。
こちらを向いたに、にやりと笑い返す。
「ばかっぷるー。」笑いながら言うと「何だとー!」と笑うもんだからまたおかしくて笑う。
さぁて帰るかと、立ち上がりかけてふと気づく。

―足、しびれてた。

長時間グレタに膝枕しててすっかり感覚のなくなっていた状態。バランスを崩して傍にあった植え込みに倒れこむ
流石にマヌケ!?片足をつっこんで顔から倒れこみかけた所を引き寄せられた

「おお、セーフ!ありがとグリ江ちゃん。」
「しびれてるのに気づいて無いの?かなりマヌケよ?!さぁて右かー?左かー?」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ」

マヌケな叫びにグレタが目を覚ます。

「あ、コンラッド。」
「やぁグレタ姫。いい夢が見れたかな?」
「うん、毒女アニシナがグウェン樽に何か芸をさせてた。ねぇコンラッド?」
「ん?なんだい?」
「“迫る”ってなぁに?」

ウェラー卿の笑顔が凍りつく。さぁピンチ。純粋な天使の問いに、どうやって答える?

「グウェンに聞いてみたらどうかな?」

・・・逃げたな。



「あ、」

ふと呟いた声にみんなが振り返る。
「忘れ物した。先帰ってて?すぐ追いつくから。」
「一緒行こうか?」
「いいって、いいって、すぐ戻るから。」

の申し出を有難く断り、もと来た道を引き返す。
陛下が「気をつけろよー?」と叫ぶのに振り返らずに片手を挙げて答えた


だいぶ日も傾きかけ、風も冷たくなっていた。
お茶会をしていた辺りに着いて、座り込む。

どうしたものかと、考える。

だって、その通りだと思うし?
同じ立場なら迷わずそうするだろうし?
前世がどうだろうと関係ないけど?
もし敵だったら?

一緒にいられない?

ふと目の前に影がさして、顔を上げると案の定ヨザックがいて
何となく顔を見られたくなくて背ける。

「忘れ物は?」
「んー?勘違いだったみたい。」

目を合わせずに立ち上がり歩き出す。
歩調が速くなっているのを自覚しながら、誤魔化すように声を出す。

「先に帰っててよかったのに。」
「・・・1人になりたかった?」

違うと言おうとして振り返ると真正面に顔があって、思わず後ずさる
「何で逃げるかな?」
「追うからじゃない?」
「疑われてる自覚あるのー?」
「無いね。残念ながら。」
「大体、面倒なのってなぁに?失礼しちゃーう。」
「グリ江ちゃんだなんて一言も言って無いけど?」
「思ってはいたけど?」
「うん。」
「まぁv正直♪」


じりじりと追い詰められて、ああ、そういえば川が近かったなぁと思い出したのは
川に落ちかけて、それを止めようとしたヨザックごと川に落ちてからでした。





ずぶ濡れのまま、ヨザックと戻ってみればからは怒られ。
「またオレンジ飲まされたくなかったら、さっさと風呂!」と脅迫されて。
・・・・友達思いで涙が出そうだわ。

魔王様専用の大浴場の使用許可を丁重にお断りして、部屋に備え付けのバスルームに向かう。
余裕で3人は入れそうな猫足のバスタブに湯をはりつつ、ずぶ濡れの服を脱ぐ。
バスタオル1枚でバスタブのふちに座って溜まっていくお湯を見ながら、ふと右足の膝元に
青痣が出来ているのに気づく。

「ぶつけたっけ・・・?」
「痛そー。触ってもいい?」

間。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「早く入って温まらないと「オレンジ」が待ってるゾ☆」
「出て行け。」

気配もなく当然のように横にいるヨザックに洗面器ごと水をかけてバスルームから追い出す。

「フツウ、きゃーとか言わないわけー?」
「きゃー。」
ドア越しに笑い声が聞こえる。鍵をかけつつまたバスタブに向かう。
よくよく見れば右太腿にも青痣が出来ていて、細かいかすり傷がそこここに見られた。
植え込みにつっこんだ時か。川に落ちた時か。薬ぬるほどじゃないけどなぁ

―それよりも、

バスタブにはられたお湯に手を伸ばす。水面が揺れるのをじっと見ながら、息を吐く。
深く。後ろに聞こえるぐらいにあからさまに。

「入浴剤はどれにするー?やっぱり泡風呂?」

鍵をかけたはずなのにこうもたやすく入ってこられると鍵の意味と意義を疑ってしまう。
半眼で振り向けば、やっぱりそこにいて、

「まぁ!目つき悪っ!!」
「誰のせい?」
「ハイハイ。出て行きますぅー。グリ江も風邪ひいちゃう!?」
「安心しなさい。ソレはあり得ないから。」

言いながら、それでも動こうとしない。動けない。
様子に気づいたのか、出て行こうとしたヨザックが声をかけてきた。

?」
「・・・・コレで、戻ったりして。」

で、戻って来れなかったりして。

おかしくもないのに笑えてくる。ありえない事ではないからこそ笑えないはずなのに。

気づくと視界が反転した。

**

足場が急になくなったと思ったら、次の瞬間にはヨザックもろともバスタブの中にいて、
バスタブからお湯が零れるのを呆然と見ながら「ああ、勿体無い」とどうでもいい事は、どうでもいい。

「何考えてんのよ!?」
「えー今はのこと?」
「疑問系がムカツク!!服着たままだし!!」
「そっちかよ。脱いでもいいけど、そうすると歯止めが・・・」
「脱がんでいい!!あ゛ーもぉー!!何で一緒に入ってんのよ?!」
「だってグリ江も風邪ひいちゃうもの!!バスタオルって濡れるとエロいよね?」
「出て行け★」

にこやかにグレタに貰ったアヒル隊長で攻撃。こめかみが痙攣している気がするが気にしない。
アヒル隊長をしまりの無い顔に押し付けるが、堪えていないのが腹が立つ。
というよりもムキになっている自分が馬鹿みたいでアヒル隊長ごと匙を投げた。

もっと何か考える事だとか、この状況は自分的にナシだろうとか、どうでもいいとか思ってる訳じゃないし、
流されてる訳でもなくて、

「訳わかんない。」
バスタブの縁に掴まるように顔をふせる。混乱している、と思う。
実際ここの所色んな事が起こりすぎて、考えるよりも先に動いていたツケが廻ってきたのだと思う。
考えたくなかった、が正しいのか?
だいたい前世なんて知らなくたって生きていける。知らないままの方がいい事だって山のようにある。
前世なんて関係ない、何者であれ、あたしはあたしなのに。
今度戻ったら、次は無いかもしれない。どうやって来たどころか、何で来れたのかさえもわからなくて、

「考えすぎるとまた熱出すぞー。」
「わかってる、仕方ないじゃない。いつまでもわからないままじゃいられないもの。」
「?わからないままじゃダメなの?」
「あ た し がっ、気持ち悪いのよ!」

引き寄せられてバスタブの中で波が起こる。近くで見た青が綺麗で泣きたくなる。
だから、甘やかさないでほしい。

「前世が何であろうとだろ?」
「・・・。わかってる。」
「傍にいて、嬉しい。じゃダメ?」
「・・・ダメじゃない。」
の傍にいたい、は?」
「聞くな。」

顔が赤いわ、泣きそうだわで、見られたくなくて顔を背けようとするが、
見事な上腕二頭筋に顔をがっちりホールドされてそれも敵わない。

「・・・はーなーせーぇぇぇ」
「離したら頭突きするつもりだろ!!そうはいくか。」
「ちっ。」
「舌打ち!?照れなくてもいいんじゃない?今更。」
「調子に乗るな。」
「乗ってマセン。まだv」
「どの口がまだとか言う訳?」
「このお口ー♪」

可愛らしく口元に指なんか立てやがって、頭大丈夫かこの男。

「頭にくる!何でこんなマチョが好きなの?!趣味悪っ!」
「好きって認めたことに対して喜べばいいのかしら・・・」
「やだーグリ江ちゃんお顔がこわーい!ていうか近い近い!!」
「調子に乗ってイイデスカ?」
「駄目に決まってるでしょ?」

バスタブの端に追い詰められ、割とピーンチ。

・・・」
耳元で名前なんて呼ばないで。何も考えられなくなる。
目が合うと楽しそうに揺れていて、有耶無耶にするつもりなんか無いのに
深くなった口づけで、今度こそ思考が飛びかけた。


ー?まだお風呂ー?」

の声に正気の世界へ無事生還。咄嗟にヨザックを沈めてから立ち上がる。
もがくヨザックはそのままにバスタブから降り立ち、頭が出る分だけドアを開けて叫ぶ

さーんタオルとってー!!」

危なかった。イロイロ。ボタボタと水滴が落ちるのを見ながらタオルを待ってると
笑いながらがタオルを持ってきてくれた。礼を言って受け取ろうと手を伸ばすと

「ありがとー姫vついでにもう1枚持ってきて?」

いつの間にやら復活していたヨザックに頭上からタオルを奪われる。
残された伸ばした手はどうしたらいいのか、微妙な空気が流れる。

「・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「いいの!何も言わなくて!ごめん気が利かなくてっ!でもご飯できてるしみんな待ってるから!!」

ああ、またコレでしばらく遊ばれてしまう。。

***

食事の席につくと、案の定というか、予想通り、いい笑顔の達が出迎えてくれて
そのまま部屋へ回れ右で帰りたかったが、食欲には勝てなかった。

「ごめんねぇ?グリ江ちゃん邪魔しちゃってv」
「もぉー姫ったらーvそんなにグリ江の入浴シーン見たかったの?仕方ないわねー今度一緒に入っちゃう?」
「おっと、手が滑った。」
「!?今明らかに目を狙ってきた?!・・・!隊長もグリ江と一緒に入りたかったのね!!ヤダグリ江ってば罪作りなオ・ン・ナv」
「本題に入ってもいいかなー?」
「いいともー。」

猊下のやる気の無い発言がこんなに嬉しかった事が今までにあっただろうか、否、無い。
隣で繰り広げられる低レベルな争いはそのまま放置。

、君の前世の件だけど。」
「ウルリーケから返事来たの?」

思わず立ちあがりかけた。
隣に座っていたヨザックが手を伸ばしてきて、しっかりと左手をつながれた。

「返事というか、」
言い淀む猊下。陛下もも神妙な顔。落ち着かなければいけないのは、誰?
深呼吸して、つながれた左手に力をこめる。

「ウルリーケに聞いてみたけどはっきりした答えはでなかった。」
「・・・そう、」
「それで、ここからは僕の予想というか、大賢者としての記憶ね。」
「心当たりがいるの?」
「うん。」
「誰だったんだ?」
次の言葉を待つ。

「誰って言うか。人じゃないし。」

間。

「「「「は?」」」」
「何だそれ?まさかコッヒーとか?!」
「そっちの方が楽しそうだなぁ。」
「どんなでも友達だよ?!」
「笑いながら言われても説得力無い!そんな優しさいらんわ!!コッヒーじゃなかったら何?魚人は嫌ぁぁぁ!!」
「残念ながら、魚人姫でもなくて、『魔獣』。」
「ハイ?」
「『魔獣』って、ええぇぇ?」
「そう、『魔獣』。人語は喋れるわ、魔術も使うわ、かといって敵でも仲間でも無いわで、眞王と2人で扱いに苦労したんだよねぇ。
 いつの間にか絶滅したっぽいけど。」
「したっぽいって。いいのかよそんなアバウトで。」
「だって、わかんないんだもーん。今生きてないことは確かだけどね。」
「根拠は?」
「勘?あとはーこの前の調べ物してた時に僕が解読できないマイナーな魔獣やら竜族の言語の解読ができてたのとチェスの駒の動かし方?」
「何なのその説得力あるのか無いのかわからない理由は。しかもチェスの駒の動かし方って何?」
「魔獣と大賢者時々勝負してたみたいでさー。駒の動かし方とか戦法とかデジャ・ビュみたいなー?友達だったんじゃない?」
「何処からどうツッこんでいいものやら、とりあえず大賢者って友達いなかったの?!」
「かもねー。」

かもねーって他人事みたいに。。否、実際前世なんて他人事よね。。

「前世も魔族だとしたら、早い段階でウルリーケがわかっていた筈だ。という事は猊下のいう『魔獣』説が一番納得がいく。」
「『魔獣』ああ、そんな感じですね?ぴったりじゃないですか。」
「あらイヤダ、ウェラー卿?魚人姫じゃなくてごめんなさいね?」
「魔族として生まれ変わってるし、多少なりと魔術も使えるだろうし?今度は自力で来れるんじゃない?」
「前世が魔獣で、魔族に生まれ変わったって事は、つまりは仲間になる為って事じゃねーの?」
陛下の屈託の無い笑顔とあくまで前向きな発言に、脱力感を覚えて机に手をつく。

「・・・よりによって、獣かよ。」
らしいじゃん。」
「まぁね!!」

の容赦の無い一言に半ばヤケで叫ぶ。ふと、隣のヨザックと目が合い、にやりと笑われた。
その様子を見てウェラー卿が尋ねる。

「えらく余裕だな?ヨザ?」
「?そぉ?だって、グリ江、ぶっちゃけの前世とか今は魔族だろうが興味ないしぃ?」
「興味ないって、もしかしたらもう会えないかもしれなかったのに?」

・・・ちょっと聞き捨てならない。確かにあたしだって前世なんて関係ないとは思ってたけど、
興味ないって、、殺意をこめて睨みつけると

が俺のことそう簡単に諦める訳が無いでしょ?」

さらりと言われて固まる。えぇっと、それって・・・?

「何?惚気?やだーグリ江ちゃんたら!自信満々?」
「むふん♪愛されてますからv」
「だそうですが??」
「ああ、そう。よかったねぇぇ。」


前世が魔獣だろうがコッヒーだろうが魚人だろうが砂熊だろうがこの際何でもいいや、
ここにいられる理由があるなら。

「ねぇねぇグウェン?“迫る”ってなぁに?ヨザックとコンラッドがグウェンに聞いてごらんって。
 ねぇなぁに?」

ご飯を食べ終わったオヒメサマの純粋な質問に、お兄ちゃんがどう答えるのか期待しつつ
握ったままだった左手は、気づかないフリをした。





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なっが。。お付き合いくださり感謝。