あの頃はよかった





「あの頃はよかった」

そう呟いても言葉もその事実でさえも虚しく通り過ぎるだけで
思いを馳せる「あの頃」に戻れない現実が、先へ進もうとする足に絡みつく

「では、『今』に満足していませんの?」

いつか何もかも見失っていたあの頃に問いかけた時と同じ
迷いもなく向けられた問いに

今もまた答えを出せずに、立ち竦む。

―あの頃はよかった

何も知らなかったあの頃は

失う怖さも、奪ってしまう恐怖も

与えられることが当然で

それを奪われることになるなんて

思ってもいなかった

それを奪ってしまうことになるなんて

思ってもいなかった―

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