例えば


朝起きて、ご飯も食べずに占いだけ見てドアに鍵を閉める瞬間や

会社で会議資料コピーしながら、ふと窓に映った顔を見た時

会社帰りに寄ったスーパーで買い物した時のカゴの中身だとか

車に乗り込んでバックミラーで確認した時に映る自分の顔が


― つまんなそうなかお ―


仕事が楽しくない訳じゃない。

夢と理想と現実が違う事ぐらいとっくの昔に気づいてる。

キラキラした時代を懐かしむほど齢はとってない。・・・筈。

プライベートだって、ヤサシイ人なら、スキになってくれる人なら、いる。

トキメキが欲しいわけでも、安らぎが欲しい訳でもなくて

火遊びするには勢いがなくて、本気になるには後には引けなくなりそうで

中古の愛車のシートに体を預けて、深く息を吐いた。



**


あてもなく走ったわりに辿り着いた場所が

「海って、・・・お約束過ぎない?」

呟いた言葉は潮風に流される。



風に靡く髪を押さえながら、砂浜に降り立つ。ヒールが砂に沈んで歩きにくい。

7月にもなれば、この時間でも明るく、夕日になりかけの太陽がきらきらと水面を照らす。

遠くに学校帰りの学生の声を聞きながら、ポケットから煙草を取り出し火をつける。

風向きで煙が自分に向かってきて、思わず目を顰めつつ、

煙草をくわえたまま、上を向くとまだ明るい空に気の早い新月。


酒でも買って帰ろうと、肺に残った煙を吐き出し、パンプスの靴底で煙草の火を消して携帯灰皿へ入れた瞬間



「おネエサン、お1人ですか?」

・・・しまった。眉間の皺がまた癖づいてしまう。

「え、ちょっと待ってくださいって!シカトしないで下さいよ」

明らかに、どう贔屓目に見ても大学入ったかそこらの若造の慌てた様子には目もくれず、さっさと帰ろうとするものの
砂に足を取られて思うように進まない。

「待ってって!ナンパとかじゃないから!!」
「・・・じゃあ何?罰ゲームか何か?」

・・・図星かよ。

「尚悪い。学生の暇つぶしに付き合う謂れは無いわ。 消 え て?」

にこやかに、有無を言わせず最後勧告。今度こそ帰るべく足を上げた瞬間


ヒールが砂に取られてパンプスが脱げた。



「あ゛ーもぉ!!」

パンプスを拾い上げ中に入った砂を落とす。

「あの・・・。」
「まだ何か?」
「イヤ、あのスミマセンでした!!」
「・・・・・・・・。どうでもいいから。」
「いえ、あーえっと、・・・邪魔しちゃってスミマセン。」

・・・何を?帰るのをって事?

怪訝そうな顔していると慌てたように聞いてもいないことを喋りだす

「サークルの先輩達と一緒に来てて、そんで罰ゲームで『10人に声かけて来い』って言われて・・・」
「あ、そう。タイヘンね(そんな馬鹿なことさせる為に学費払ってる親が)。」
「え?」
「いいえ?もういいかしら?本気で 消 え て ?」
「スミマセンデシタ。お仕事でお疲れの所。」


・・・・あー、だから。やめときなさいってワタシ。オトナになったんでしょー?

そう思ったのに、


次の瞬間、言葉は口から零れてた。


「ええ。お疲れなの。」
「・・・へ?」
「お仕事って大変なの。学生の君が思ってる以上に神経すり減らして毎日毎日、血反吐は流石に吐かないけど神経性胃炎と
 オトモダチ状態。毎月の給料なんてタカがしれてるし、体力はおろか気力だけで乗り越えていけると思ったら大間違いだし、
 理想と現実とましてや夢なんて毎日のパソコンの前で泡のように消えるのよ?愛があっても暮らしていけるほど
 人生も社会も会社も身内も甘かないの。だ か ら 。」

一息に淡々とまくし立て、呆然と立つ憐れな八つ当たりの対象に躍り出た若造にアドバイス

「今のうちにイヤって程青春でも謳歌して、社会の荒波に挫折を味わうがいいわ。」

・・・・・・・・あーやっちゃった。逆ギレされるかしら。最近物騒だから刺されたりして?ヤダ、パソのログ消してって頼まなきゃ。

気まずい空気の流れる中、今度こそ振り返ることなくその場を後にしようとした

背後から声がした。

「挫折したとしても、」

足が止まる。

「乗り越えます。」



思わぬ反撃に、・・・口元が緩む。へぇ?

「せいぜいがんばって。」

コレは嫌味ではなく。本心から。




「最近の若者は、」何て言う側にまわるなんて思ってもなかったし、言わせて見れば自分だって「最近の若者」なのかも知れないけど

「頑張る人」を笑う奴にはなりたくない。



「がんばろう」

車に乗り込み、バックミラーに映った自分に笑ってみせる。

大丈夫。

だってまだまだ負けてられない。

そして、二度と会わぬであろう前途ある若者の輝かしい未来を祈った。


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永遠に、向かって