「じゃあ、タルトとミルフィーユでしょ?あ、限定モンブランにー。」
「・・・ダイエットはどうした?」
「すみませーん、クレームブリュレとザッハトルテも追加でー。」
「俺が悪かった。」

甘い香が漂う店内、色とりどりのケーキが並ぶショーケースはさながら宝石箱のよう。

5回連続の当日キャンセルのお詫びに貢がせたケーキは5個。

『ありがとうございました。』

マニュアルどおりの笑顔を貼り付けたバイトと思わしき店員に軽く会釈しつつ外へ出る。

段々と早く濃くなる夕闇が、過ぎ行く夏と気の早い秋を感じさせる。
流石に朝晩は半袖では無理があるようだ。
ケーキの入った箱を片手に、バランスを崩さないように車に乗り込む。

「幸せそうだな?」
「安いもんでしょ、コレでチャラにしてあげようって言ってんだから?」
「ハイハイアリガトウゴザイマス。って1人で食うつもりか?!」
「アタリマエデショ?お詫びの貢物なのに、お前が食ってどうすんの。」

「プラス2kg決定。」などと不吉極まりない言葉は聞かなかった事にして箱の隙間からケーキを盗み見て笑みを浮かべる。

「家来るか?」
「んー?今から仕事でしょ?あたし明日朝一の便で遊びに行くから待つつもりもさらさら無いし、帰るから送れ?」
「明日からって・・・?聞いてないですけど?」
「言ってないからね。」
「・・・お前はそーいう奴だよ。いつもいつも気がつくと1人でどっか行ってたり、そのくせ俺には厳しいわ優先順位が友達と仕事よりも
下とかさー、・・・まぁ仕事も友達も、大事だ。それはいいんだ。それは大事にするべきだ。」
「納得頂けた様で良かったわ。」

今更何言ってんだか。

「だから、」
「うん。」


「別れよう。」
「うん。」

コレも今更。




交差点で止まった車。流れる沈黙。前を向いた視線はそのままで、車と歩行者を眺める。

「言い訳するつもりは、無い。」
「知ってる。謝るつもりも無いわ。謝って欲しい訳でもないし。」
「・・・嫌いになったわけじゃねぇよ。」
「カッコつけたいのは、あるかもね。」
「ホント、イイオンナだよ。」
「オトコマエの間違いでしょ?」


少しずつ生じたズレをそのままにできなかった。歩み寄る事もしようとしなかった。
だから、

これが必然。


あらかじめ、想定していた結末。

信号が青に変わって、静かに滑り出す車のエンジンの振動に身を任せ、カーステレオから流れる自分の知らない曲を聴きながら


「サヨナラ。」


そう、呟いた。


                                         ―理由なんか無くても



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理 由