Warp


自分的には極々珍しい事。だからと言う訳ではないが、
気づけば

無意識に逃げた自分がいた。


仲が悪かった訳じゃない。嫌いという訳でも、苦手という訳でも、かといって好きという訳でもない。
つまり自分にとってさして障害も問題もない、ただの「友人」という名の「知り合い」
思えば何故逃げ出したのか、それすらあやふやで今となっては自分の行動に首を傾げる。
何のことはない、
「久しぶり、元気してた?」
とでも話しかければいい。そして当たり障りの無い話をして笑って・・・それで?

だって別に話す事ないし。
普段着にも程があるほど気を抜いた格好だし。
化粧も最低限しかしてないし。
思えばあんまりサシで喋った事ないし。
覚えてないかもしれないし、ソレはソレで悔しいし。

(―まぁいいか。)
気づかれて無いだろうよ。タカをくくり来た道を引き返そうと踵を返す、と
目の前に、いた。

っていうか見てる。むっちゃ見てる!!
目が合ってる?!気づいてるの?わかんねー!
えー?!どうするよ?!どうするって、、ナニヲ?
うわっ来たし。。

「・・・ヒサシブリ、デス。」
かろうじて紡ぎだした何のひねりも無い台詞。
動揺している自分がわからない。。それでも自分から切り出したのは
先程逃げたという事実からの得体の知れない罪悪感からか
「元気?」
「・まぁ、ボチボチ?」
「何で疑問系(笑)今何してんの?」
「あぁ働いてるよちゃんと。」
「ふーん何処で?今日休み?」
「あーうん休み。」
「平日休み?」
「否、今日は偶々、休み?」
「オレも偶々。先月の代休今頃もらった」
「へー大変。忙しいんだー」
「お互い様デショ」
「あーまぁねー」
「・・・」
「・・・じゃあまた、ね?」
またっていつよ?と自分にツッコミを入れつつ、にこやかにさりげなく
手を振ろうと右手を上げた。

その手を掴まれた。
「さっきなんで逃げたの?」

一気に頭から血の気が引いた。
「にげ、」
「人の顔見るなり明らかに方向転換したよなぁ?」
「否、気のせい!さっき?気ヅカナカッター」
嘘くさい、嘘くさいぞ自分。
「気のせい?」
「気のせい気のせい。ほら、あたし考え事してたしー、」
咄嗟に何も浮かばない、我ながら尻尾踏まれた犬のようだと思う。
「ふーん」
落ち着かない。
「ご、ゴメンね?」
謝ったら認めたも同然だし・・・
「まぁいいや。今から何か用事?」
「えっと、もう帰ろうかなーって」
「茶でも奢ってやるから付き合え」
「え?!ヤダ!」
「ヤダってお前な・・」
「あーゴメン。って、なんで?」
「何でって何で?」
「何で、でしょう?」
だって別に喋る事ない。かと言ってこれといった断る理由も無いけど、、
奢ってもらう言われも無いよなぁ。
そんな心のうちを知ってか知らずか、苦笑いしながら
「んな高いもん奢ってやらねーから安心しろ?」
と明るく笑う。
こんな顔だったかと記憶を探るが、探るほどの記憶も無い事に気づき諦める。
「じゃゴチになります。」
「ハイハイ。そこでいい?」
「ホントに高くないし。」
「やかましい」

目に付いた緑の看板に入って行き、ふと掴まれたままの右手を見る
その目線に気がついたのか軽く笑って右手が解放された。
「落ち着かない」
「?何か言ったか?」
「別に」
だって、我ながらこの状況はありえないと思う。

「何にする?」
「ラテのショートで」
「じゃそれとストロベリーフラベチーノのトール1つ」
「・・・」
「何ですかその顔。」
「トールデスカ?」
「?問題あり?」
「無いよ。ああ無いさ。」
軽く脱力感を覚えつつ、応じる。
商品を受け取り席に着く。
「・・・甘そう。。」
「甘いよーvっていうか自分のも砂糖大量に入れてたじゃん」
「否、そっちが甘いって。イチゴな上に生クリームたっぷりでしかもトールって。。」
「うまいよ?」
「知ってる。男で頼むヒトはじめて見た。」
「うわっ偏見!!」
「イタダキマス」
「ハイ、どーぞ」

考えれば考えるほどこの状況はありえない。
学生時代ならともかくも、・・・否、学生時代の方がありえないとも思い直す。
その程度だ。あの頃も今も距離は変わらない。変えようとも思っても無い。
あと2・3年の間に、数少ない共通の友人の飲み会やら結婚式でもない限り、そんな機会がない限り、
またそんな機会や、こうやって偶然に会ったとしてもこんな状況にはならないだろう。
「・・・シアワセそうね。」
生クリームたっぷりのストロベリーフラベチーノをにこやかに食べる姿にそう呟くのが精一杯。
「喰う?」
「結構です。」
「そんな警戒しなくても」
笑いながらイタイ所をついてくる。
確かに自意識過剰かもしれない。目の前にいるのは、ただの「知り合い」なのだから。
「自意識過剰だったかもねー」
「何ソレ?あー緊張したとか?」
「んーていうか、実際昔からそんな喋った事ないデショ?だから戸惑ってる?感じ?」
言葉にしてしまえばそんな些細な事。
「昔何喋ってたかなんて関係ないじゃん。」
一言。
「同じこと喋るわけじゃないんだし」



「何?」
「あー、、何か改めて自分馬鹿みたいだなぁって」
「はぁ?」
「それだけスゴイ事言ったって事。」
「オレが?まぁねー惚れるなよ☆」
「あはははソレは無いから。」
「速攻?!」
それからしばらく本当に他愛も無いくだらない話をして、
あの頃どーだったとか、それは気づかなかっただの、知らなかっただのの昔話もそれなりに弾んだが
当座は現在の自分達の状況報告で盛り上がる。
長年付き合っていた彼女と別れてしばらく人間不信してただの、
精神すり減らした4年間の見返りが1万円だっただの、
そういえば奴は結婚するらしいとか、それは知ってる5つ下は犯罪だろうとか、
やはり永遠の夢は幼な妻なの?とか、年上のキレイなオネイサンも捨てがたいだの、
あのオネーチャン足細っ!、んー78点?、採点辛くナイ?!・・・・

「で、今何処勤めてるって?」
「さぁ?」
別に言ってもよかったけど、何となくノリで答える。
相手もそれ以上聞いてもこないから、これでいいと思う。
気がつけば空になったカップ。高かった陽もだいぶ落ちてきた。
時間にすればそんな長い事喋ってなかったのが意外だったが、
意外と感じている自分に一番驚いた。

「天気いいなぁ・・・・」
「明日からまた仕事かぁ。。。」
「・・・ヤな事言うね。。」
どちらともなく席を立つ

「ご馳走様でした。」
「ドウイタシマシテ」
「さて、帰るかなー」
「つき合わせて悪かったなぁ。」
「イエイエこちらこそ、・・・うん。楽しかったですよ?」
口に出してみれば案外素直な感想で、本心からの言葉でもあって・・・
「何か、こー、、ヒトさみしーっていうかなぁ、別にひとりでもいいんだけどっって時無い?」
「あぁー。欲求不満?」
「そうそう。って違う!否、違わないのか?」
「構ってほしい感じね」
「あるよなぁ?」
軽く笑って同意する。

「じゃ、またね。」
小1時間ほど前に口にした時には違和感のあった言葉も、
今度はすんなり自分の中に入ってきた。
「おう、またなー。」
さらりと返された言葉もまた、すんなり受け止められた。


お互い軽く手を上げて、

また其々の道に戻っていった。

連絡先も知らないし、たぶんあっちも知らない筈だし、「また」がいつかもわからないけど、
聞くつもりもなかったし、聞かなくてもいいんだと思う。
いつか今日みたいに偶然に会ったら、今度は無意識に逃げる事もないだろう、
(・・・・逃げるかも知れない。)
ふと考えて笑いがこみ上げる。
(―まぁいいか。)


―イツカ、ハレタヒニ。





ネタ提供アリガトウ。M嬢。妄想と現実の間を行ったり来たり。
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