―いっそ見事に、その端正な顔に使い慣れた黒のバックがめり込むのを見届け
掴まれていた左手を振りほどいた
そこまでは、完璧だった。
距離をとるために踏み出した先に、 猫がいた
勢いを止めるには距離が近すぎた
猫を蹴散らして逃げ去る程、堕ちてもいなかった。
(せめて避けて!!)
ありえない体勢になりつつ猫を避けようと体をひねり
迫り来る次の衝撃に向け体を硬くした
衝撃が、
?
衝撃の代わりに感じたのは背中の熱。
抱きとめられたおかげで地面と無様に仲良くせずにすんだ事も、
誰に抱きとめられたのか、も
すぐにはわからず
背中の熱が熱いと感じた。
蝉の声が響く中
―にゃぁぁん―
その時初めて、猫が鳴いた。
―想定外。事実を告げてきっかり1秒後、左の即頭部から左頬にかけてを襲った衝撃で
掴んでいた左手が振りほどかれた
そこまでは、無様。
我に返って、視線を戻した先で、 彼女が倒れかけていた。
相棒(猫)と彼女との距離は近すぎて
避けようと必死になって、バランスが崩れていた。
(間に合え!!)
伸ばした右手が先程振りほどかれたばかりの左手を掴む
そのまま自分の方へ引き込みバランスを崩さないよう両足に力をこめ
衝撃が、
?
案外すんなり収まった胸の中に熱を感じた。
図らずも腕の中に収まって捕まえる事が出来た事も、
掴んだ左手が思ったよりも細かった事も、
それまでの思考を止めるには十分で
両腕の中に閉じ込めた熱を熱いと感じた。
相棒(猫)の声が聞こえたのに
その時、蝉の声だけが酷く響いていた。
逃げることが出来なかったのは
たぶん、
― 晴れた日だったから。