はじめはただの八つ当たりと気晴らし。
あんな所で気がかりな奴残して死ぬ訳にはいかなかったから。
生きてさえいればどうにでもなると思っていたし、実際そうするつもりでいたから。
それでも屈辱的な状況の中で平常心を保つのが容易じゃなくて、
それを悟られたくなくて
目に付いた相手がたまたま「彼女」だっただけ。
彼女の大事な「愛スルヒト」が死んだ。
戦争やってんだからそんなことどこにだっていつだって聞いてきただろうに。
でも自分が殺した奴らの中にはいなかったとわかった時、
ほっとした。
でもそれはたまたま「オレ」じゃなかっただけ、であって。
衝撃 恐怖にも似た。
まっすぐに叩き付けられたソレが自分に向けられている事に
刃のように 鋭く 深く
自分の傍にあるソレが「生きた感情」である事に
殺そうとした。許せないと思った。
「彼」を殺した「コーディネィター」が
「彼」を侮辱した「アイツ」が
だから、でも、殺せなかった。
殺しちゃいけないって思った。
そして気づいてしまった。
頭では理解していたつもりの 事実 に。
同じ人間なのだから、斬りつけられれば血が出る。
同じ人間なのだから、流れ出る血は「赤い」
その血は紛れも無く自分と 同じもの である 事。
愕然とする。
認めたくなかった。彼の「死」も彼の「存在」も、
自分の内にある深い暗い黒い「感情」を。
今でも夢に見る。
在りし日を映し出す写真の中と同じように笑う彼。
自分の名を呼びこちらへ伸ばしてくるその手を取りたくて手を伸ばすのに
届かない。
イカナイデ、オイテイカナイデ、オネガイ
声さえ出せずに、名前さえ呼べずに、
そして、朝が来る。
何度目なのかももうわからない夢の終わりはいつものようにやってくる。
目が覚めて初めて自分が泣いていたことに気づく。
先の戦争が世間的な「終結」と言う結果を向かえ、
様々な人の思惑を含めながらも、少しずつ「平穏な日々」に戻ろうとしていた。
彼女もまた当事者の一人として事後処理に追われていたが、
これもまた様々な人達の思惑や、配慮、純粋な思いやり等の結果、
ヘリオポリス時代の友人の一人と共に、自分の家族が住むオーブへ戻ってきた。
暇は人をダメにするとはよく言ったものだと思う。
実家へ戻ってからの3日間はそれこそ泥のように眠った。
体はもちろん、何より精神的に疲れていたのだ。我ながら無理もないと思ったし
それに関して咎める人もいるはずもなかった。
体の疲れはゆっくり休んだ結果、無事復活。
暖かく迎え入れ当たり前のように庇護してくれる両親。ヘリオポリスの友人も会いに来てくれた。
優しい言葉、気遣い心配して泣いてくれる友人。自分を愛してくれている事が痛いほどわかった。
これ以上余計な心配をかけまいと笑って見せるのだが、うまくはいかなかったらしく、
結果更に心配をかけてしまっているようだった。
AAにいる時はそれこそ息つく暇もなく色んな事が起きていたし
正直自分だけが悲しみに明け暮れている場合でもなかった。
余計な事を考える余裕すらない現状で、皆、生き残る事に必死だった。
守られていたと思う。たくさんのヒトに何度も。何度も。
生き残る為、守り抜く為、戦場へ残る決心をし、一度はまた歩き出したのに。
今は、ただ、立ちすくんだままこの場から一歩も動けない。
文字通り「抜け殻」の様だと自分でも思う。
ただ在りし日の、何も知らなかった頃の「自分」と「彼」をみつめて
泣く事さえできずに。
ただ時間だけが過ぎて、
ただ写真を見つめる。
あの夢からさめて起きると必ず泣いているのに、どうして今は泣けないんだろう。
どうしてあの時また歩き出す事が出来たのだろう。
そして、
―アイツはどうして戻ってきたのだろう。
ぼぅっと考えるがその思考さえも続かず途切れる。
そうして日が傾き、オレンジの光が部屋を染める
先の戦争が世間的な「終結」と言う結果を向かえ、
彼は当事者の一人として、また「軍人」として微妙な立場だったが
彼自身不本意ではあるが結果的には、「勝利」側の人間であり
「世界」を救った英雄の一人としての立場を考えた寛大な采配の下
「ZAFT」へ戻り、最悪の事態は免れた。
喜ぶべきなのだろう、感謝するべきなのだろう。
忌み嫌っていた権力者である父の息子である事実に。
真底の思惑はどうあれ自分を庇護してくれた、机上で戦争を起こす政治家に。
…あいにくとそんな殊勝な根性は持ち合わせていなかったが。
掛け値なしに感謝してもしきれない相手ならたくさんいる。
大事な母親を裏切る事になり、
自分の為に立場をも危うくした大事な幼馴染、
短いながらも、共に戦い、戦争後それぞれ自分で精一杯の筈なのに
本当に自分の事を心配し色々と掛け合ってくれた島国の姫、
恋人を失った心優しい軍人らしからぬ艦長とその部下達。
自分の「価値」を見極め「戦場」をその舞台と選んだ歌姫。
泣き虫の騎士と真面目過ぎる元上司。
そして
ツマラナイ世界 を変えた 「彼女」
そんな「彼女」に伝えるべき筈の多くの言葉は、
伝える事もできず、また言葉にする事さえできなかった。
「ウカツ。。」
窓に寄りかかり外を眺める。水の音で雨の時間だと気づく。
人工的な空の色。光も、温度も、天候さえも制御された世界。
この世界がニセモノだとは思わない。
ただ、知ってしまっただけだ。本物の強さを。
今、どうしてる?泣いてない?
―心配する権利なんて無い、だって何も伝えていない。
今自分がZAFTにいる事すら知っているかどうかさえわからない。
自分と同じように思い出してくれたりするのだろうか?心配して、いるだろうか?
泣いて、ないだろうか?
「時間です」
抑揚の無い事務的な声で現実が戻ってくる。
雨の時間が終わり雲間から光が差してきた。
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