プラント行きのシャトルの搭乗受付のアナウンスが響く
我ながら女々しいと思いつつも辺りを見回す。

再会を喜ぶ友人達、別れを惜しみ涙する恋人達、旅立つ息子を激励する夫婦、
どの中にも自分の望む人の影すら見つけられず、短く嘆息する。

来る筈がない、いる筈がない、そんな都合のいい話があるわけがない。

「昨日会えただけでもヨシとしますか。」

自嘲気味の呟きを自分に言い聞かせるようにして搭乗口の方向へ歩き出そうとする、が。

足がすくむ、心臓を冷たい手で掴まれるような感覚が、搭乗口へと向かう一歩を踏み出せない。

これから「戦場へ向かう」その現実が過去の恐怖を蘇らせる。
彼女には「争う為にザフトへ戻った訳じゃない」と言った、その言葉に嘘はない。
自分自身に出来る事、コーディネーターとして、軍人としての自分、
戦争という名において散っていった友人達、名も知らぬ多くの敵、
知り合うこともなかった罪もなく死んでいった者達、
そしてこうしている今も孤軍奮闘しているであろう気高い大事な幼馴染、


もう持ってしまったから、知ってしまったから、目を瞑ってしまう訳にはいかないから。



昨日彼女に会いに行ったのは「最後になるかもしれない」と思ったから?
答えは否、最後にしてたまるか。自問自答しつつ昨日の彼女の顔を思い出す。
まぁどうせなら笑顔が見たかったと考えて、それこそ最後みたいで縁起ワリぃと
また自嘲的な笑いを浮かべる。



下を向いて目を瞑る、肺の中の空気を吐き出し、大きく息を吸い込みながら、空を見上げる。


目を開きガラス張りの天井から差し込む光を見据えゆっくりと視線を戻す。


震えはない、大丈夫。


瞳の中に強い光を取り戻した彼は、これから向かう茨の道へその一歩を踏み出そうと左足を上げた

その時





彼の決意の第一歩は誰かに押し出されるような形で、若干というか寧ろ無様に着地した。

「なっ?!だっ?…え?」

せっかくの第一歩を不本意なものにした何者かに不平の声を上げようと振り返って見上げた
そこには、



今自分が一番会いたい者の姿があった。




「な、…んで?」

口から出てきた言葉はあまり意味のない呟きにしかならず、しかも声が震えてしまった。
疑問を投げかけられた当人はというとそんなことは気にもしていない、

と言うか余程急いできたのか息が上がっており、膝に手をつき大きく肩で息をしている
どうやら押したかったわけではなく勢いあまって突き飛ばしてしまったらしい。

「…っミリアリア?何で?!」

今度は声は震えなかった。息を整えゆっくりと顔を上げる彼女の額にはうっすら汗がにじんでいた。

「……から。」

目を逸らしながら呟く。

「何?え?ごめん聞き取れなかった。」

慌てて立ち上がり目を逸らす彼女を覗き込むようにして聞き返す。

すると、意を決したように自分の方へ向き直りキッと見つめられ、
半ば睨まれる様な視線に押され少し後ずさる

「あれで、最後なんて嫌だったから。」

そういった彼女の目に昨日の戸惑いはなかった。


「…っよくわかんないのよ!!でももう誰にも死んで欲しくないし…だからっ」

最後まで言い終わらないうちに強い力で引き寄せられその腕の中に抱きしめられる。

「オレは最後にするつもりなんかねーよ?」

そう耳元で囁かれ耳まで赤くなる。顔は見えないが笑っているのはわかる。

「っ!!勘違いしないでよね別にあたしはっ」
「ハイハイ知ってますぅ、…ゴメン少しこのままでいさせて。」
「ちょっ…」

更に文句を言いかけたが、

ほんの少しだけ震えているような気がして何も言えなくなる。

「争う為にザフトに戻った訳じゃない」彼のその言葉に嘘がない事ぐらいわかっている。



そして今ここにいる彼がまた戦場へ赴かなければならない事も。




だからこそ今自分はここへ来たのだ。





『10:25発ユニウス5行き1350便へご搭乗予定のお客様へご連絡いたします。まもなく…』
無情のアナウンスが現実へと二人を戻す。

「さてと、…見送りサンキュ♪ また、な。」

そう笑う彼の顔はいつものように笑っていて、

この顔が見たかったのかも知れないとぼんやり考える。

荷物を持ち直し搭乗口へ向かおうとする彼の背に

「っ無茶しないでね!!それと…」

振り返る彼の顔が逆光で見えにくい

「それと?」


 決意と誓いをそして願いを


「あたしも負けないから。だから死なないで。」



凛とした言葉。強い意志を持った瞳。
そこには自身を取り戻した「彼女」がいた。

偶然と言う運命で知り合って約半年、ようやっと「彼女」に会えた気がして
まぶしくもやわらかく微笑し手を伸ばす。

「彼女」もまた笑って手を伸ばす。




「あんまり無茶すんなよ?」
「アンタこそあの銀髪のお友達君に迷惑かけんじゃないわよ?」

同時にふきだし笑う。

「じゃあ」
手を離そうとした瞬間またも引き寄せられ、次の瞬間口元近くに軽く音を立ててキスされた。

「なッ???!!!」
「今度はココね♪」

あまりの突然な出来事に二の句がつけないでいるミリアリアを尻目に
悪戯っぽい笑みを浮かべ逃げるようにして搭乗口へと向かう。

「こんの馬鹿ー!!さっさと帰れ!!」

顔を真っ赤にして叫ぶ自分を残し、
背中を向けてヒラヒラ手を振りながら搭乗口へ消えていく「いつも」の背中。




もう足はすくまない。立ち止まる事はない。

―「彼女」が背中を押してくれたから。『タタカウヒト』になれる。


とんでもない置き土産をしていった相手が搭乗口へ見えなくなり、
動揺した心を落ち着かせる為ゆっくり深呼吸する。


体の隅々まで空気がいきわたるようにゆっくりとゆっくりと。


「よし。」

そして、歩き出す。

悲しみの喪失感で立ち上がれなくなった自分を引きずり起こした「彼」。
そして自ら茨の道を選び再び戦場へと赴いていく「彼」。
「彼」が見た自分はちゃんと笑えていてだろうか?

道を選ぶ。ワタシは

―『マモリヌクヒト』になる。


さぁ


さぁ



例え選んだ道が違っても守るべき思いは同じ

この空が続く限り

きっと。

きっと。

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其れを「恋」と呼ぶなんて知らない。「愛」と呼ぶにはまだ早い。

 たぶんこれが「掛け替えのないfriendoship

friendship

微笑って