天使だか死神だか知らないが、繋いだ手が暖かいのは


「着いたぞ?」

何を話すわけでもなく黙って手を引かれるがまま歩いて、ようやく声をかけられ顔を上げれば
自宅の前だった。

「ここだろ?家。」
「あ、。」

間の抜けた声を出し、鍵を取り出そうとしてふと固まる。

手を繋いだままでは鍵が取り出せない。

手を離してしまえばいいだけの話だが、そうする事を何故だか躊躇われた。

そんな一瞬の逡巡に気づいてか自然に離れる左手。
―――――ナイなんて思ってない。

まとまりのつかないバックの中からようやく鍵を取り出しドアを開けると同時に声をかけられる。

「じゃ、オレ行くわ。」
「・・・は?」

今度は何を言い出すのだろうこの男は。

「見張って無くていいわけ?」
「んー良く考えたら、逃げれるわけがないから。」

―逃ゲラレナイ。
妙に自分の鼓動を近くに感じた。
思わずシャツの心臓の辺りを掴み、正面の男を睨みつける。

「・・・最後なんだし。俺がいないほうがいいだろ。」

相手にとっての事実が、今の自分にはこんなにも理不尽に聞こえてならない。
半ば八つ当たりのような怒りと共に向けた視線の先で、先の発言に後悔してるように見えたのは錯覚か。

「最後にするつもりなんて無いわ。」
「・・・・・。」

無言と共に向けられた静かな笑顔に、何故だか泣きたくなった。

聞き分けのない子供をあやすかのような笑み。

口を開けばそのまま叫びだしそうで、勢い良くドアを閉める。
ドア越しに聞こえる声。

「呼べばすぐ来れるところにいるから。」
「・・・屋根の上とか?」
「・・・流石にそれは不審者過ぎるだろう?」


ドアに寄りかかりそのまま座り込む。
足音が遠ざかるのを聞きながら、呼ぶも何も名前も知らないのに?などとどうでもいい事を考えた。


―次が最後。次で、最期。




   

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