9
太陽が姿を隠した後の、夏の夜は短くて、月だけがやけに明るく浮かんで
そして夜が明けていく。白い月を浮かべたまま。
「最後なんだし、俺がいない方がいいだろ。」
事実だとしても、もっと言い方を考えるべきだったと後悔したが
どんな言い方にせよ、彼女を待ち受けている現実は変わらない。
たかが20数年。
彼女が生きた時間。
これからの未来があると信じて疑わなかった日々。
神がその存在を否定するのであれば、彼女は何に祈ればいい?
何に助けを求めればいい?
助けを求めて手を伸ばす先にいるのが俺だったとして、
彼女は俺に救いを求めて縋るだろうか?
仕事だと割り切っていたはずなのに、調子が狂わされている。
それに気づいて、距離を置いた。
「・・・何やってんだか。」
短く吐き出された嘆息と共に呟く言葉。独り言のつもりだったのに
「ほんとにねぇ。」
普通に答えが返ってきたものだから、反応が遅れてしまった。
「?!何やってんの?!」
「呼べばすぐ来るとか言いながら、来なかったのは何処のどいつよ?」
「あー、、・・・。」
まさかほんとに呼ぶとは思っていなかったとは言えずに口ごもる。
どう答えたものかと反応をうかがうと、そんな事はお構いナシに猫と戯れていた
(泣いたな。)
薄闇でもわかるほどまぶたは軽く腫れ、目も充血していた。
気づかないフリをしながら、隣に座る。
「別れは済んだ?」
「本気で言ってる?」
答えはNo。「諦めてない」としても「事実を受け入れた」としても
できるわけがない。するわけがないのだ。
「これが『罰』?」
事実を確かめるように、静かに、ただ静かに尋ねられ、少し腫れたその瞳を見つめる。
「わからない。それを決めるのは、お前次第だよ。」
「神の御意志ではなくて?」
「残された時間をどう使うかは、本人の意志に任せるって話だったからな。」
「・・・。」
「生まれてきた事を後悔して我が身を呪うか。最後まで生き抜くか、お前はどうしたい?」
「後半日切ったってのに、これ以上更に考えろって事?」
軽く笑って立ち上がる。泣きたいのに泣けなくて、笑うしかない、そんな表情。
「・・・残り時間。しっかり仕事してね。」
「・・・謹んで。」
自分に向かって伸ばしてきた手を取りながら、助けを求めて縋るのは
自分 かもしれない。
何故だか
そう、おもった。
泣いてくれれば、いい、と思った。
8 10
鯨top