「・・・そんな安いヒトじゃないでしょ?」
そう言って笑う。
言葉に嘘はなかった。
芽生え始めた自分気持ちを戯れに誤魔化したあざとさを見抜かれて
何も言えない。
認めたくなかったのかもしれない。気づきたくなかった。自分の気持ちを。
「・・・・。」
「・・・・。」
それは唐突で、自分の視界にある世界が、見えているのに見えなくて
見たくないのだと、認めたくないのだと気づく。
戻ってきてしまったなんて。
「・・・・。」
「。・・・・夢じゃ、ないよ?」
呟いた声が、自分でも情けなくて驚いた。
行ったのも突然なら、還ってきたのも突然。
状況を掴みきれなくて、全ては夢だったんじゃないかと思うが、
の言葉に、もう、笑うしかない。
華の女子高生が2人して噴水の中に座り込んでる姿は、さぞや滑稽だろうと冷静に思い立ち上がる。
の手を取って立たせ、噴水の中から出る。
ローファーに水が溜まってガポガポして気持ち悪い。
「帰ろ・・・か。」
「、」
右手に掴んだままのリボンをに手渡しながら歩き出す。
大丈夫だからと笑って。
そんな顔しないで、大丈夫だから。
*
朝起きて、はじめに目が入ったのは高い天井や掃除が大変そうな大きい南向きの窓ではなく
どこにでもある一般的な庶民住宅の一室。見慣れているはずの、何故か懐かしい我が部屋。
そして、アイツと同じ青い瞳。
「に゛ゃー」
「・・・おはよ、姫。」
顔を覗き込むように愛猫がのしかかる。体重4Kgの愛は重い。
―アイツより、軽い。って当たり前か。
いつもと違うと感じる程長くあちらにいたのかと考えると何だかおかしかった。
こちらの時間で言えばつい昨日のことなのに。
学校帰りにと買い物に出かけて、近道だからって公園を抜けようとして、
がいつからだったか身に着けはじめたリボンが風に飛ばされそうになって、
「大好きな人に貰った大切なもの」だと幸せそうに大事にしてたのを知ってたから、
咄嗟に手を伸ばしてリボンを掴んだまでは良かった。
掴んだ拍子にバランスを崩して、そのまますぐ後ろの噴水めがけて背中から倒れるのをが慌てて引き上げようとして、
「で、2人してスタツア・・・。」
・・・・・・・ちょっと。情けなくて泣きたい。
ふと時計を見れば、否が応にも現実が待っていて
制服は昨日クリーニングに出した。学校は都合の良い事に今日は休み。
二度寝をしたくとも愛猫の腹時計は正確で、早く起きろと急かすように呪われそうな声で鳴きつづける。
覚悟を決めて起き上がり、下の部屋に降りる。
あの世界には無い文明の利器の便利さに感謝しつつ、状況把握のためにメールを送った。
*
朝起きて一番初めの仕事は、最愛の彼女を起こしに部屋を訪ねる事。
寝顔を見るのも楽しみだが、見たいのはやっぱり目を覚ました時の漆黒の瞳の色。
覚醒までの数秒、自分だけを見つめるその瞳が見たくて、
「寝顔見るなんて!セクハラ!!」と真っ赤な顔で怒る彼女にキスをしてなだめて、そして1日が始まる。
ドアを開けて目に入るのは、無人のベット。主のいないベットの端に座り、薄く息を吐く。
会いたい。触れたい。声を聞きたい。
どれくらいそうしていたのか、大した時間ではないのは確かだが、気がつけばドアの傍に幼馴染の姿があった。
「来てたのか。」
「・・・おはよう隊長。ひでー顔。アンタ本当にバカだなぁ」
しみじみ言われ苦笑いしながら立ち上がる。
「んもぅ、仕方ないからグリ江の胸でお泣きナサイ!!」
「筋肉でできた胸はいらん。」
言いながら、横目でヨザックを見る。あくまで普段どおりで、それ以上にもそれ以下にもなくて。
不安にならないのか・平気なのか・もしかしたら二度と、と考えて思考を止める。
そんなこと、他の誰でもない、本人が一番わかってるはずだから。
「・・・もしかして、心配してくれたりした?」
「・・・少しでも思った俺がバカだったよ。」
「ヤダ!グリ江ってば愛されてるのね!!」
どうせ、弱みなんか見せやしないのだ。そんなことより最愛のがいつ戻ってくるかの方がよっぽど重要だ。
心配なんかしない。彼女はきっとすぐに自分の元に戻ってくる。認めたくは無いが悪魔もつれて。
*
待ち合わせの本屋で軽く立ち読みしながら、を待った。
少し遅れて店の中に入って来たがこちらに気づいたので手を上げる。
「。」
「お腹すいた。」
「・・・・・・・・・。」
あくまで普段どおりで、
普段どおり過ぎて、違和感を覚える。平気なのかと聞きかけてやめた。平気だと答えるに決まってる。
落ち着いて話したいし、移動することにして本屋を出たところで、後ろから声をかけられた。
「ねぇ、彼女達ー、何処かで会ったこと無い?」
あれが夢なら、此方の世界では聞いた覚えの無い声、
夢で無いとすれば、非常に聞き覚えのあるその声、
振り返った視線の先に、予想通りの人物を見つけて微笑む。
「・・・ヘタなナンパね。」
「運命的なものを感じないかい??」
「ぜんっぜんvどっちかって言うとマのつく人の策略の匂いがするわ?」
「だってよ、渋谷。どうしてくれるんだい。」
「俺のせいにすんなよ。・・・大丈夫か?。」
有利の視線の先を振り返って見れば、半歩後ろで黙っている。
急に心配になって声をかけようと口を開きかけて、
「・・・大丈夫。ありがとう『陛下』。」
「『陛下』って言うな。」
「そこに反応するってことは、つまり、夢じゃない、か。」
「信じたくない気持ちはわからなくは無いけどな。」
「・・・。」
そうじゃなくて、と手を振る彼女。
「夢じゃないなら、やることなんて1つでしょ?」
何か、今まで引っ掛かっていたものが外れた気がした。
嘆くなんてガラじゃない、ただ会えるのを待ってるだけなんて
「あたし達らしくないしね。」
そういって笑ってを見ると、満足そうに笑ってたから安心した。
次の言葉には、・・・凍ったけど。
「ウェラー卿に見せるものもあるしねー?」
「!!!着ないわよ?!アレは!!」
「着てあげないの?ワンピース。」
「!!!!」
「何のはなしー?」
目ざとく食いついてくる大賢者様。メガネがっ!光ってるよムラケン!!企んでるよ!!
心の中でここにはいない恋人に助けを求めつつ、有利の腕を取って移動した。
*
「親分ーなんか仕事クダサイー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
3階の窓からいつもどおり、侵入してきた部下に対し、
眉間の皺を一本増やすことで応じる上司。
上司を見習って仕事熱心な部下に対して、ソレはないんじゃないのー?
「・・・・昨日任務から帰ってきたばかりだろう?報告書はどうした?」
「グリ江ってば、机仕事は性に合わないって言うかー?」
山と詰まれた書類から目線を外されることはなく、更に眉間の皺が増えるのが見えた。
沈黙。カリカリとペンの走る音だけが響く。
ねばっても無駄かなぁ、などと考えて入ってきた窓から出ようと足をかけた時ようやく声をかけられた。
「・・・・戻ってきた時、」
「はい?」
「お前がいなくてどうする。」
誰が・とか、聞きかけてヤメタ。
「・・・戻ってこないかもしれないのに?」
「?!・・・グリエ!」
最後の言葉まで聞かずに窓から外へ。
―当たり前の日常が続くなんて、どうして思えたりしたんだろう。
明日になればまた会えるなんて。
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